えほんや 作家さんの想いを伝えるインタビュー特集

第2回「自分が情熱を持てるものを絵にしたい」

作家:越濱 久晴

2012年12月

第2回は、えほんやで『ヘンゼルと グレーテル』を描かれている 越濱久晴 さんのインタビューをお届けします。

Q1. 越濱さんの経歴が面白いですね。Web制作のお仕事からイラストレーターになられたきっかけを教えて頂けますか?

えほんや
▲帽子とロン毛がトレードマーク
 そうですねえ。小さい頃から物を作ったり、絵を描いたり、切り貼り工作みたいなものが好きでした。最初はイラストレーターになろうとは思っていなかったんです。富山の高校を卒業してからアメリカに渡り、その後Web制作の仕事の為に帰国して大阪に住むことになりました。Webデザインの仕事が大変だったのですが、その合間に友達の為にポストカードを描いてあげたのが最初のきっかけでした。自分のイラストで人が喜ぶのが嬉しかったですね。PCも使って、色んなやり方を試したりしてみました。
 絵を描いていなかったら、芸人とか(笑) 人を楽しませることをしていたと思います。僕にとって、それはイラストなんだなと感じて友人に絵を描き始めたタイミングで、妻のお腹に双子が宿ったことを知りました。双子ということで、これは生活が変わるなと思いました。そこで、当時大阪で勤めていたデザイン事務所の仕事では子育てに関わる時間があまり持てないと感じたんです。妻の実家のある東京に引越して育児のサポートを受けながら、自分も子育てに参加できるように、仕事をイラストレーターに転向したいと考えました。転職のことを妻に話したら、「やったほうがいいよ!」と喜んで応援してくれました。妻が応援してくれるから後悔しないと思いました。あのときに『やったほうがいい』と評価してくれたことが、とても嬉しかったです。そして妻は、男の子と女の子の双子を無事に産んでくれました。今、作品に対して母としての目線からのアドバイスにも感謝しています。


Q2. これから出産というときに、イラストレーターになりたいご主人を応援できるなんて、とても素敵な奥様ですね。素晴らしい信頼関係と絆で結ばれていますね。イラストレーターとしての越濱さんは、双子のお子様とともに歩まれたのですね。

えほんや
▲お子様のお話ににっこり
 子どもの絵や子どもに向けたものを模索しながら描いていきました。身近でギャーギャー言っている、泣いている、笑っている表情豊かな子ども達がそばにいるので、そこから得られた日常が自分のイラストになっていき、自分がいいと思っている、情熱が持てるものを絵にしていきました。本当にうるさいのですが、一晩会わないと淋しくなって会いたいと思います。
 家にいて、仕事して、子育てしてということを何年間もやってきたので、僕が上着を着てネクタイをした姿を見て、「パパ、ついに!」と言われました。世の中のお父さんと同じように、働きにいくということなのですが、子ども達から、そんな発見や気づかされることを肥やしに、面白エピソードを貯金していきました。
 そんな中、子ども達が7歳になり、スキップの原さんが『こういうのあるけど、やりませんか?』と声を掛けて頂いて、作品も選べるとのことでした。電子書籍に興味があったので、小説と違って、絵本はいろんな見方があるので面白いと思いました。iPadの画面で絵を見るのは、これからの子ども達なので、これから親しんでいきたいと思いました。 最初に昔からあるお話を描きたいと思っていたのですが、“ヘンゼルとグレーテル”に出会いました。自分の絵柄やキャラクターデザインから、どういう絵で描こうか考えました。日常の子ども達の“笑う・悲しい・嬉しい”表情を、人より時間をかけて見てきているので、その貯金を、今回の作品で投影しました。物語は、嬉しかったり、悲しかったり、人との繋がについて考えさせられる内容でした。“ヘンゼルとグレーテル”は、主人公の二人が男の子と女の子の兄妹なので、僕の双子の子ども達と重なって、描いていてしっくりきました。


Q3. えほんやアプリの作品に運命的な出会いを感じますね。作品を描かれた際に、苦心した点はありますか?

 おばあさんの魔女や、イジワルな継母を、充分恐ろしくしたつもりでも、僕のイラストだと親しみのあるキャラクターに感じたりしたので表情に苦心しました。ヘンゼルとグレーテルの二人は、大変な人生を送っていくのですが、読み手が2人の気持ちに共感しながら、兄妹で乗り越えていく子どもの表情、背景の場面の色、不安だっだり、楽しかったり、心細かったり、ちょっとつらいシチュエーションの時に自分を投影してもらえたらと感じて描きました。いろんな大人が出てきたり、いじわるだったり、魔女が出てきたり、食べられそうになったり、困った時に兄妹で助け合うストーリーなので、一緒に大冒険をしてもらいたいと思います。言葉がなくても、絵を見たら日本の人が絵描いたと分かるように、『日本だな~』と感じてもらえるような色使いも工夫しました。色はインスピレーションでのせているのですが、『色がいいね』と言われると嬉しいんです。そのときのシーンの一番合うような、なるべく綺麗な色を選びました。


Q4. えほんやアプリの『 ヘンゼルとグレーテル 』 を読まれる子ども達に伝えていきたいことはありますか?

えほんや
▲人を楽しませることが大好き!
 ただ読んでくれるだけで充分嬉しいです。今の子ども達は、色んなものを与えられているなと感じています。親のチョイスであったり、親のウケがよいものが流行るとか流行らないとか、そんな世の中ではないかなと感じています。夜、本を読んで欲しい時に読んだら落ち着く、一緒にストーリーを追う、親子で楽しむ娯楽として絵本があるのだと思います。iPadやりながら、朝から晩まで家族がいたり、家族でも読めると思うし、一人でも読めます。そういう作品を作るという立場に居させてもらっているのはとても嬉しいことだと感じています。
 ヘンゼルとグレーテルが自分かもしれないと共感してもらってもいいですし、いい娯楽・いいエンターテイメントとして、子ども達に与えてあげたいです。親子一緒に楽しめて一緒に考える、親が見ても楽しいなと思ってもらえる作品に仕上がるように願って描きあげました。『教育の為によい本を読ませたい』『これを読ませれば、よい子になる 』よりもむしろ、良質な本を楽しませる為に読んでもらいたいと考えます。
 この作品を通じて、親子でどんな話をして、どんな時間を持てたかを大切にしてもらって、純粋に喜んでもらえたらと思います。


素敵なエピソードが満載の『ヘンゼルと グレーテル』を多くの方にダウンロードしてもらいたいと思います。
どうもありがとうございました。



(取材:2012年6月 取材・文:渡辺 陽子 学芸大学「かふぇ り どぅ あんぐいゆ」にて)

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