えほんや 作家さんの想いを伝えるインタビュー特集

第1回「想像力をはぐくむようなメッセージ性のある絵本をつくりたい」

作家:くわざわ ゆうこ

2012年12月

えほんやで、『みにくいあひるの子』を描かれている くわざわゆうこ さんのインタビューをお届けします。


Q1. iPadの画面からキャンパスの目地まで感じられて、作品全体がとても美しい色合いに仕上がっていると感じました。えほんやアプリでリリースされた『みにくいあひるの子』は、電子書籍ですが、紙の絵本との違いはありましたか?

 そうですね。今回初めて電子書籍に挑戦しました。もともと紙フェチなので、白い紙でも微妙に色が違うと興奮するくらい、紙にこだわっていました。最初にスキップの原さんから依頼があった際に、『え~?』と紙じゃないところに拒絶反応をしてしまいました。もしも原さんからのオファーでなかったら受けなかったかもしれません。原さんは『いずれは紙にも出来ればいいな。』『断ってもいいよ。』と言ってくれたんです。かなう、かなわないは別にして、いつか紙にしたいと思いました。完全なデジタルではなくて、紙があってこその電子書籍、それだったらやってもいいと思いました。
 でも、電子絵本のよさに気づきました。紙の場合は、印刷の際に画材の色がそのまま出すということが、色が沈んだりして難しいのですが、今回の、『みにくいあひるの子』では、キレイな色が忠実に再現できたんです。それにiPadを通じて、世界中の人に作品を見てもらえることもうれしいです。本として出版しても見てもらえないことには、子ども達に楽しんでもらえないですから。
えほんや
▲色の美しさに納得の表情
作品を描く際には、せめて素材やキャンパスの手描きの雰囲気が出せるようにこだわりました。作品が完成して感じたのは、紙でもデジタルでも、子どもにとって楽しいものは何でも伝わるということです。それでも、紙が好きなので細部までこだわったのですが、質感や色をこれだけ再現してもらえて驚きました。青は、通常紙に印刷する際に色が沈んでしまうのですが、思い通りの色に仕上がっています。自分の作品では『美味しそう』な色にこだわりがあるので、とても嬉しかったです。


Q2. くわざわさんがイラストレータになられたきっかけや、『みにくいあひるの子』を描かれる際のエピソードなどをお聞かせいただけますか?

えほんや
▲色々な紙質の名刺
 最初はライターとして取材を3年間やっていました。紙が好きなので本の仕事をしたかったんです。ライターの次にデザイナーをやってみたりしましたが、絵を描いたことがなかったんです。デザイン会社に入ったことがきっかけで、ラフやコンテを描く時に「プレゼン用に何でもいいから描いてみて。」と言われて描いてみた作品をプレゼンで出したら通ってしまったんです。その際に「イラストやってみない?」と声を掛けられました。「絵を描いている私!?」なんて予想外の展開でした。
 この『みにくいあひるの子』は自分に合っていると感じました。今までは、最後に白鳥になって良かったという「かわいそうなお話」のイメージでしたが、自分で描く際には、主人公を、ただの " かわいそうな子 "にしたくなかったんです。いろんな鳥に会っていじめられているけど、悲観的な子にしたくはなくて、ちゃんと自分のことを受け止めている子にしたいと思って描きました。
 例えば泣いているふりをしたり(笑)。いじめられてシュンとしちゃうんじゃなくて、自分を持っている主人公の表情に気を配りました。いじめられても、どこかで『自分の方が上だよっ 』て思っているような、弱そうだけど弱くないぞという、そういう“ めげない ” あひるの子になっていると思います。今まで読んだストーリーだと、見た目が全てみたいな印象でした。子どもがみにくかったらいじめられるというような。かわいそうなお話という印象を払拭するような前向きなお話になるように心がけました。
 みにくいあひるの子は、最後に白鳥になるのですが、元々白鳥の子だったんです。最後になって気付くんですけど、みんな本当の自分のことを分かっていなかったり、本当は得意なことに気づかなかったりしているんじゃないかって思ったんです。
 私は元々イラストと全く縁がなかったんです。それが、絵を描きはじめたら、思わず評価して頂いて自分でも楽しいと思いました。自分のことを一番自分が分かっていないのかもしれないと思いました。みんな、最初は白鳥じゃない。まだ、みにくいあひるのこ かもしれない。どこで自分の本当に向いている道が開かれるか分からないから、人生って楽しいと思いました。童話って、シンプルなお話ですが、自分達の想像力で考えるところの余白を残してあると感じます。



Q3. 古典の絵本を新しい観点からストーリーを読むことができるなんて素晴らしいですね。
主人公の、みにくいあひるの子や、まわりの鳥達の表情で、ここまでストーリーがオリジナルに感じてしまうほどの影響があるのですね。私も、今までは『かわいそうなお話』というイメージしか無かったのですが、新しい観点から、新鮮な気持ちで作品と向き合える気がします。
今回描く際に苦心したところはありますか?


 そうですね。私は人よりも動物を描くのが好きなんです。実家が田舎なので、小さい頃から、犬やニワトリ、猫、ピラニアなどを飼っていて、キツネやタヌキ、クマと出会うような環境でした。私の名前も、よく『くまざわ 』と間違われるくらいなので(笑) 動物が好きです。
今回は、鳥ばかりで描き分けが大変でした。例えば、七面鳥はグロイおじさんで、いじわるな鳥だったりしますが、色で印象が変わるので、なるべくグロくならないようにしました。


Q4. 作品を読むのが楽しみです。最後に、えほんやアプリの『みにくいあひるの子』を読まれる方達に伝えたいメッセージをお願いします。

えほんや
▲動物を描くのが大好き!
 少しでも沢山の方にダウンロードして見てもらえたら、一番嬉しいです。受け取り方が、それぞれでよくて、アヒルを好きになってもらったり、『この鳥キライ』という感想でもいいんです。『絵本は子どもにいいんだ』『絵本をよんだらいい子に育つ』というよりも、想像力をはぐくむようなメッセージ性のある絵本をつくりたいと思いました。その絵本を読んで、子どもが入り込めるような魅力あるキャラに心掛けました。『かわいい』『そのキャラが言うことだから、言うことを聞きたい』と思ってもらえるような、子ども達に寄り添う身近な存在であったら一番嬉しいです。


どうもありがとうございました。



(取材:2012年7月 取材・文:渡辺 陽子 学芸大学「かふぇ り どぅ あんぐいゆ」にて)

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